セラピストにむけた情報発信


  デュアルタスク条件下の立位姿勢制御



2008年1月29日

 実験室場面で立位姿勢制御課題をおこなう際,計算課題のような認知課題を同時におこなうと,姿勢制御課題を単独でおこなう場合よりも,姿勢の揺らぎが大きくなることが知られています.2つの実験課題を同時におこなう実験パラダイムはデュアルタスク(二重課題)と呼ばれます.心理学的実験における伝統的な実験パラダイムの一つです.

 日常生活では,立位時の姿勢制御だけに集中していることはありません.よって日常生活では常に多重の課題を同時遂行しながら,姿勢の揺らぎを動的にコントロールしてバランスを保持していると考えられます.

 高齢者を対象にデュアルタスク条件下で姿勢制御課題をおこなうと,若齢者に比べて姿勢の揺らぎが顕著に大きくなります(レビューとしてWoolacott & Shumway-Cook 2002).この問題に関わる研究者の多くは,この顕著な揺らぎを転倒の危険因子ととらえ,デュアルタスク条件での姿勢の揺らぎを最小限にとどめるような介入が,高齢者の転倒予防に寄与すると考えています.

 様々な介入方法の中で最も直接的な方法は,いわばトレーニングの一環として,デュアルタスク条件下での姿勢保持課題を長期的に遂行してもらうという方法です.最近,このトレーニングの有効性がいくつか報告されています(Pellecchia 2005; Silsupadol etal. 2006).これらの論文を読んでいて興味深いのは,2つの課題を別々にトレーニングしても,デュアルタスク条件での姿勢保持の成績に寄与しないという結果です.つまり,高齢者に求められるのは,認知的な能力そのものの向上ではなく,多重な課題遂行の条件下でも姿勢保持に認知的資源を配分できる能力といえます.

 残念ながら,デュアルタスクのトレーニングの有効性を説明する理論は,注意の自動化といった,やや古典的な認知心理学の考え方にとどまっており,学際的研究としての重要性を十分に伝えられてはおりません.今後の研究の進展に期待したいところです.


引用文献
Woollacott MH, Shumway-Cook A. Attention and the control of posture and gait: a review of an emerging area of research. Gait Posture. 2002 Aug;16(1):1-14

Silsupadol P, Siu KC, Shumway-Cook A, Woollacott MH. Training of balance under single- and dual-task conditions in older adults with balance impairment. Phys Ther. 2006 Feb;86(2):269-81.

Pellecchia, G. L.Dual-task training reduces impact of cognitive task on postural sway. J Mot Behav2005; 37: 239-246



(メインページへ戻る)